バナジウムクラスターイオンの電子構造 3−13 量体

(東大院理、豊田工大)○峰本 紳一郎、寺嵜 亨、近藤 保

【序】 バナジウムクラスターは、結合エネルギーや反応性などの物理的、化学的性質が、 サイズの偶奇によって大きく変化することが知られている。これらの性質はクラス ターの幾何構造や電子構造に起因すると考えられるため、我々は高感度吸収スペク トル測定法を用いてそれらのサイズ依存性を調べている。これまでに報告した Vn+ (n=3,4) に加えて[1]、今回、より大きなサイズ についての測定結果を報告する。

【実験】 レーザー蒸発法により生成した後、質量選別したクラスターイオン、 Vn+Ar 、にレーザー光(440-2500 nm) を照射し、光吸収に伴って解離生成するイオン、 Vm+ (mn) 、を質量分析して検出した。レーザー光の波長を掃引しながら Vm+ の強度を測定し、 Vn+Ar の光解離スペクトルを得た。Ar 原子と Vn+ との相互作用が弱いため、ここで得られた Vn+Ar の解離スペクトルは Vn+ 自身の吸収スペクトルに相当すると考えられる。

【結果】図1に Vn+ (n=3-10) の吸収スペクトルを示す。低エネルギー領域 (1.3 eV 付近) の吸収ピークに着目すると、その吸収断面積は、偶数サイズにおいて奇数サイズよ りも大きいという強度交替を行いながら、クラスターサイズとともに大きくなる傾 向を示している。

【考察】V3+ V4+ に適用したスピン分極 DV-Xa 法を用いて V5+ のスペクトルを解析した結果、三方両錐型の構造が最もよく実験結果を再現した (図1)。このとき、 V3+V4+ と同様、各原子が持つ d電子のスピンは互いに打ち消し合うように結合して いることが明らかになった。そのため、 V3+V5+ など奇数サイズのクラスターイオンでは、 d電子のスピンが完全には打ち消し合わず、多数スピン と少数スピンとを持つ電子の状態密度に差があるということになる。一方、計算結果 から、低エネルギー領域の光吸収は主にフェルミ準位付近の電子に由来することが分 かった。他のサイズにおいても、奇数サイズのクラスターイオンでは多数スピンと少 数スピンとをもつ電子の状態密度に差があり、また、フェルミ準位付近の状態密度が 減少していて、それが低エネルギー領域での吸収断面積の低下を引き起こしているの ではないかと考えている。

[1] S. Minemoto et al. 分子構造総合討論会1G23 (1996); 4D08 (1997)

*この研究はコンポン研究所のプロジェクトの一環として行われた。

 

図1:  Vn+ (n=5-7) の吸収スペクトル

実線はDV-Xa法による計算結果を示す。